小説

『ホワイトアウト』 真保 裕一(著)感想【超人的な活躍の裏にある後悔】

こんにちは、こうへい(@koheinoblog)です。

『ホワイトアウト』 真保 裕一(著)を紹介します。

タイトルのホワイトアウトとは、雪によって視界が白一色となり、方向・高度・地形が識別不能となる現象のことです。

雪山にある巨大ダムが舞台のアクション・サスペンス小説です。

一気読み必至の傑作で、吉川英治文学新人賞を受賞しました。

この小説のキーワードは「雪」「後悔」「テロリスト」です。

オススメ度:

この小説の魅力

主人公の超人的な活躍

自分が物語の世界にいるかのような臨場感のある描写

目が離せない緊迫感のある展開

あらすじ

日本最大の貯水量を誇るダムが、武装グループに占拠された。職員、ふもとの住民を人質に、要求は50億円。残された時間は24時間! 荒れ狂う吹雪をついて、ひとりの男が敢然と立ち上がる。同僚と、かつて自分の過失で亡くした友の婚約者を救うために――。

目次
十一月 奥遠和
十二月 御殿場
一月  羅臼沖
二月  東京
二月  奥遠和
エピローグ

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感想

600ページを超える長編で物語に厚みを持たせつつも、まったく飽きずに最後まで一気読みをしてしまうほどのおもしろさでした。

雪山と富樫との対峙、そして富樫とテロリストの対峙、迫力・臨場感ある描写とスリリングなストーリーに目が離せません。

富樫が下流のダムにたどり着いて外部を交信する場面、そして最後の病院での場面では思わず涙が零れました。

吉岡の婚約者が、富樫の超人的な活躍に驚嘆する一方で、それならなぜ吉岡を救うことができなかったのかと恨むような気持ちになってしまうシーンがあります。

しかし、それは違います。

確かに富樫の行動はとんでもないですが、何度も心が折れそうになっています。

富樫を突き動かしているのは、かつて友を死なせてしまったというトラウマなのです。

吉岡の婚約者が捕らわれているからこそ、心が折れずにここまで来れました。

死の恐怖よりも、かつてと同じことを繰り返してしまうことへの恐怖が上回っているのです。

命を懸けることへの動機付けがしっかりとされているからこそ、物語にのめり込めことができました。

ミステリ的な要素がこの物語にもう一味加えています。

テロリストの真の計画とあまりにも皮肉な真相が隠れていました。

富樫のこれからを案じずにはいられません。

印象に残った言葉


富樫は自分だけが生き延びることになった理由が、今、理解できた。
――やはり、吉岡、おまえだったのだな。


冬山での遭難では、最後まで生き延びようとする強固な意志が何よりも大切だった。意志を失った時、人は人でなくなる。


酷寒の吹雪の中で、笑顔を浮かべながら死の眠りにつこうとする遭難者の気持ちを、富樫は初めて理解していた。死は平穏で優しく、生は耐え難いほどの苦痛に満ちている。どちらを選ぶかと問われ、自ら苦痛に身を委ねようとすることの、何と愚かで滑稽なことか。自ら死を選ぼうとする者を、意志の弱い弱者と、誰が決めつけ、責められるだろう。

知らなかった単語・知識

奥只見ダム

「ホワイトアウト」のモデルは奥只見ダムだった。

奥只見ダム[新潟県] - ダム便覧 (damnet.or.jp)
冬の奥只見ダム 出典元:うおぬまダム周遊マップ

トラバース(traverse)

登山で、岩壁や山の斜面を横切って進むこと。

デジタル大辞泉

ラッセル(russell)

《ラッセル車の発明者の名から》
1 「ラッセル車」の略。
2 登山で、深雪をかき分け、雪を踏み固めて道を作りながら進むこと。

デジタル大辞泉

レポ

《「レポート」「レポーター」の略》報告。連絡。また、連絡員。特に、非合法の政治活動でいう。

デジタル大辞泉

宥め賺す:なだめすかす

リングワンデルング

ドイツ語Ringwanderung。吹雪,濃霧,暗夜などのため,方向感覚を失い,無意識のうちに同心円を描くように同一地点をさまよい歩くこと。とくに広い尾根,高原など平たんな地形でこの状態になりやすく,疲労のために遭難の原因ともなる。

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