こんにちは、こうへいです。
小説『Ank : a mirroring ape』 佐藤究(著)を紹介します。
1頭のチンパンジーの影響で、京都に大惨劇が訪れるミステリー・SFです。
2018年に第20回大藪春彦賞・第39回吉川英治文学新人賞のダブル受賞を果たしました。
オススメ度:
特にこんな方におすすめ
SFホラーが好きな方
フィクションにも合理性を求める方
文学賞受賞作を読みたい方
あらすじ
2026年、京都で大暴動が起きる。「京都暴動=キョート・ライオット」だ。人々は自分の目の前にいる人間を殺し合い、未曽有の大惨劇が繰り広げられた。事件の発端になったのは、「鏡=アンク」という名のたった1頭のチンパンジーだった。霊長類研究施設に勤める研究者・鈴木望は、世界に広がらんとする災厄にたった1人で立ち向かった……。
感想
論理的かつ熱量のある筆致で、ページをめくる手が止まりませんでした。
鏡像認識とゲノムを持ち出して物語を展開した発想は見事です。
そこにギリシャ神話も絡めています。
類人猿から人類に進化したきっかけ、猿人・原人・旧人が絶滅した理由、そして「京都暴動=キョート・ライオット」が起きた原因についても、この説1つで筋が通っています。
大暴動で数多の犠牲者が出ましたが、1番かわいそうなのはチンパンジーのアンクです。
この小説を読んで、SFの名作である『星を継ぐもの』(ジェイムズ・P・ホーガン)を思い出しました。
謎を解明して人類の起源に迫るところや、著者の着想で作った設定なのに実際そうだったんじゃないかと思わせる論理的な描写が共通しています。
おもしろいのはもちろん、あまりのスケールに圧倒されます。
物語の中でパルクールが事件解決に一役買うのですが、初版が2017年と知って驚きました。
その頃の日本ではそれほど知名度がなかったのではないでしょうか。
小説の中で説明があるようにパルクールは起源こそかなり昔に遡るようですが、僕が「パルクール」という名前を知ったのは去年くらいだと思います。
それまでにもパルクールの動き自体は見たことがありましたが、名前は知りませんでした。
知らない方はぜひ以下の動画をご覧ください。
印象に残った言葉
それは論理ではあるが心ではない。
自己鏡像認識には、「映っているのは自分だ」と理解するのと同じくらい、絶対に欠かせない要素がある。水であれ、鉱物であれ、そこに映るのは、自分であり、自分ではない。だからこその鏡なのだ。
学んだ単語・知識
好事家(こうずか)
ものずきな人。また、風流を愛する人。
精選版 日本国語大辞典
現代人が日常に使っている鏡は、ガラス裏面に硝酸銀溶液を塗った鏡
鏡の製法には、「真空メッキ法」と「銀引製法」の2種類あり、真空メッキ法では名前の通り真空を利用して鏡が作られます。鏡と真空の関係についてわかりやすく解説します。
鏡よ鏡・・・美しく見えるのは真空のおかげ!鏡と真空についてわかりやすく解説 | 株式会社菅製作所 (agus.co.jp)
一般的なのは銀引製法
昔ながらの鏡は銀引き製法によって作られています。まず、ガラスの表面に錫の金属膜をつけ、銀の膜がつきやすいよう準備します。そして、銀を吹き付けます。実際には、硝酸銀溶液と水酸化ナトリウム(苛性ソーダ液)、ブドウ糖をかけて化学反応させることで、ガラスに銀の膜を作り出します。その後、純水で洗い、銀膜の劣化を防ぐために銅を吹き付けます。ガラスの裏面も保護膜をつけて完成です。
美しい鏡は真空メッキ法
真空メッキ法は、真空下でアルミニウムを蒸気(ガス)にしたものをガラスに付着させて作ります。アルミの膜が出来たら、保護するために樹脂塗料を塗ります。真空メッキ法は、アルミニウムの粒子が細かくガラスとの密着率が高くなります。そのため、丈夫なため車のバックミラーなど屋外でも使用されています。また、天文台の望遠鏡に使われる鏡も、真空蒸着によりアルミニウムを蒸発させてガラスをメッキしたりしています。
ベルベットモンキーの警戒音
アフリカに生息するベルベットモンキーは,その天敵であるワシやヒョウ,ヘビに対してそれぞれ異なる警戒声を発することで知られている(Cheney& Seyfarth, 1990)。
霊長類の音声器官の比較発達―ことばの系統発生 (jst.go.jp)
ガルウィング・ドア
自動車などのドアの開閉方式の1つである。「ガルウィング」は「カモメの翼」の意味。
ガルウィングドア - Wikipedia
ルーフとドア上辺の間に車体中心線にほぼ平行なヒンジを持ち、地面に対して垂直に展開するかたちで開く。
ゲルストマン症候群
脳の特定の場所に病変が存在することによって起こると考えられている、後述の一連の症候を示す神経疾患である。オーストリア出身のアメリカの神経学者ヨーゼフ・ゲルストマンにちなんで命名されている。
ゲルストマン症候群 - Wikipedia
次の4つの主な症候で定義される。
1. 失書 : 自発的に字を書くことも書き取りもできない。
2. 失算 : 暗算も筆算もできない。
3. 手指失認 : 指定された指を示せない。
4. 左右失認 : 左右がわからない。