こんにちは、こうへいです。
小説『 明日の記憶 (光文社文庫)』 荻原 浩(著)を紹介します。
若年性アルツハイマーになったサラリーマンを描いた物語で、読んでいてつらくなる場面もあります。
しかし嫌な気持ちになることはなく、希望の持てる終わり方でした。
アルツハイマー・認知症についてほとんど知らない方にこそおすすめしたいです。
オススメ度:
あらすじ
広告代理店営業部長の佐伯は、齢(よわい)五十にして若年性アルツハイマーと診断された。仕事では重要な案件を抱え、一人娘は結婚を間近に控えていた。銀婚式をすませた妻との穏やかな思い出さえも、病は残酷に奪い去っていく。けれども彼を取り巻くいくつもの深い愛は、失われゆく記憶を、はるか明日に甦らせるだろう!
ポイント
若年性アルツハイマー
若年性アルツハイマーとは18歳~64歳までに発症するアルツハイマー型の認知症です。
健達ねっと
特徴としては仕事上でのミスや仕事関係者の名前を忘れるなどの日常業務で発覚することが多いです。
また、話をうまく合わせるなどで他者に気づかれにくいため、集中力不足と勘違いされて終わることもあります。
さらに徘徊といった行動障害もみられるようです。
小説とは関係ないですが18歳から発症することもあるというのを初めて知って驚きました。
広告代理店
主人公の佐伯は広告代理店の営業部長です。
人の生死にかかわる仕事ではないため、医者からは認知症になっても続けることを許可されます。
ただし職場に状況を話すように言われますが、佐伯は隠したまま仕事を続けます。
生死に関わらないといっても広告代理店の仕事は、多くの人と関わり外出も多い仕事です。
名前や場所を忘れてしまう症状が強い佐伯は、かなり苦労します。
すべてをメモしようとして、ポケットがメモでパンパンになるのが痛々しいです。
陶芸
佐伯の趣味は陶芸です。
大学4年の冬に、陶芸にはまっている友人・児島に誘われて窯場へ行き、夢中になりました。
結婚して子供が生まれてからは足が遠のきましたが、児島の死をきっかけに別の工房で陶芸を再開します。
現在は娘の結婚祝いにペアの湯呑みをプレゼントしようと熱心に通っています。
感想
この小説は心に直接訴えかけてきて、かなり揺さぶられます。
物語がアルツハイマーになった主人公の視点(+日記)で描かれているからです。
だんだん症状が悪化していくのを読んでいて自分のことのように感じてしまいます。
かつて「認知症」は「痴呆」と呼ばれており、この小説でも痴呆という言葉が使われています。
「痴呆」という字面からは、患者はボケて何も考えていないかのようなイメージを抱いてしまいます。
ですが本人は自分が以前のようにうまくできないことを理解しており、葛藤しているのです。
現状を素直に受け入れることもできず、家族に打ち明けるのが恥ずかしいと思うのも無理はありません。
僕は身近な人が認知症になった経験がないため、認知症の現実をよく知りません。
介護する人が大変でつらいという話はよく聞きますが、本人もつらいに決まっていますよね。
若年性であればなおさらだと思います。
だからこそ認知症患者にとって必要なのは信頼できる身近な人なのです。
佐伯の妻・枝実子は献身的に夫を支えます。
心配する気持ちが行き過ぎて、過度な食事療法やスピリチュアルに走ってしまうのが実際にありそうだと思いました。
枝実子が鬱になってしまうんじゃないかと心配でしたが、そうはならずよかったです。
物語としては希望が残る終わり方でしたが、佐伯と枝実子の人生はまだ続くことを考えると悲しくもなってしまいます。
印象に残った言葉
人の死は、心臓の停止した瞬間に訪れるのか、それとも脳が機能を失った時からなのか、その論争に関してはいろいろな話を聞かされてきたが、記憶の死はどうなのだろう。
「ありがとうございます。課長」
心からそう言った。本当はきちんと名前を呼んで礼を言いたかったのだが、残念ながら、私はどうしても彼の名前を思い出すことができなかった。
学んだ単語・知識
たまさか(偶さか/適さか)
【一】[副](「に」を伴っても用いる)
大辞泉
1 思いがけないさま。偶然であるさま。たまたま。
2 機会が数少ないさま。まれに。たまに。
【二】[形動ナリ]
1 まれであるさま。
2 めったにないと思われるさま。ひょっとしてそうなるさま。万一。
最後に
2006年に映画化もされています。
僕は観たことがないのですが、映画好きの父親が観たことがあるそうです。
渡辺謙さん、樋口可南子さんの演技とストーリーが相まって泣いてしまうと言っていました。
ぜひ映画も観てみたいです。