こんにちは、こうへい(@koheinoblog)です。
小説『風に舞いあがるビニールシート』 森絵都(著)を紹介します。
短編集で6つの話が収録されています。
思うようにいかない生活の中でも、自分なりの幸せを見つけて生きていく人たちの物語です。
第135回直木賞受賞作です。
オススメ度:
特におすすめな方
犬を飼っている方、犬が好きな方
お仕事小説が好きな方
仕事・私生活に関わらず、もやもやした気持ちを抱えている方
目次
あらすじ
器を探して
弥生は、ケーキショップのオーナーであるヒロミの気まぐれに振り回されている。
今日も、ヒロミがプディングの撮影で美濃焼を使いたいと急に思いつき、クリスマス・イヴで恋人との約束があったにもかかわらず、美濃焼を探しに岐阜へ発つ。
犬の散歩
恵利子は、捨て犬保護のボランティアでお金が必要なため、水商売を始めた。今は2匹の犬ギャルとビビを自宅で預かり、里親を探している。
条件のいいギャルは里親希望の連絡があるが、悪条件のビビには一向に里親が現れない。
守護神
裕介はバイトをしながら大学の第二文学部(夜間部)に通う三十代。
卒業単位のために複数のレポート提出が必要だが、時間の余裕がない。
夜間部にはニシナミユキというレポート代筆の達人として有名な生徒がいるが、厳しい選考基準があるという噂で、祐介は過去に一度断られている。
一年越しに代筆を依頼するためニシナミユキを訪れる。
鐘の音
潔は以前、仏像を修復する仕事をしていた。
しかし、修復に携わった不空羂索観音像が原因で、突然仕事をやめ姿を消した。
ジェネレーションX
健一は弱小出版社が発行する通販情報誌の編集部で働いている。
客から雑誌の特集ページでとりあげた商品に誇大広告があったとしてクレームが入り、直接謝罪に赴くことになった。
販売元の玩具社員も一緒に行くことになったが、担当者は休暇中のため石津という若い社員が代役を任された。
風に舞いあがるビニールシート
里佳とエドはUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)で出会い、結婚した。
エドはいろんな国の難民キャンプで、人の命も尊厳のささやかな幸せもビニールシートみたいに吹き飛ばされていくところを見てきた。
ビニールシートを引き留めることが自分の使命だと感じるエドと、エドの身を案じる里佳の間には見えない壁がある。
感想
小説の魅力の1つは、自分が知らない世界に出会えることだと思います。
この短編集の6つの物語すべてが自分にとってなじみのない世界で興味深かったです。
特に「犬の散歩」が一番好きでした。
捨て犬保護のボランティアは報酬がない上に、費用の負担さえ必要です。
それでも活動している主人公には頭が下がります。
僕は犬を飼っているわけではないですが、犬好きそして動物好きとして無責任なことはしないと決意しました。
表題作の「風に舞いあがるビニールシート」はテーマが重いので、もう少し描写を増やした方が入り込みやすいと感じました。
特にエドのフィールドワークを具体的に知りたかったです。
それでもビニールシートという表現がとてもしっくりきますし、思いつくのはすごいなと思います。
印象に残った言葉
結局のところ、二人は離婚という結論に至るのに必要な時間さえも欠いていたのだ。一、二年に一度、彼らがともにするわずか数日のあいだでは、二人の齟齬や亀裂が目についても、それを突きつめるまでには至らない。かぎられた時間ならばあえて波風を立てるより、片目を閉じてでも平和にすごすほうを選んでしまう。
知らなかった単語・知識
枕頭:ちんとう
人煙(じんえん)
人家のかまどに立つけむり。転じて、人の住んでいるけはい。
精選版 日本国語大辞典
不空羂索観音(ふくうけんじゃくかんのん)
仏教における信仰対象である菩薩の一尊。六観音あるいは七観音の一尊に数えられる。三昧耶形は羂索(狩猟用の投げ縄、または両端に金具を付けた捕縛縄)、開蓮華(満開のハスの花。聖観音の初割蓮華と対をなす)。種子はमो(モ、mo)。
不空羂索観音 - Wikipedia
日本では「不空羂索観音菩薩」や、「不空羂索観世音菩薩」などさまざまな呼称がある。尊名の「不空」とは「むなしからず」、「羂索」は鳥獣等を捕らえる縄のこと。従って、不空羂索観音とは「心念不空の索をもってあらゆる衆生をもれなく救済する観音」を意味する。
畢生(ひっせい)
命の終わるまでの間。一生涯。一生。終生。
精選版 日本国語大辞典