小説

『暗いところで待ち合わせ(幻冬舎文庫)』 乙一(著)

こんにちは、こうへいです。

小説『暗いところで待ち合わせ』乙一(著)を紹介します。

タイトル・表紙・あらすじはホラーのようですが、意外にもあたたかく読後感のよい物語です。

特に人間関係で悩みがある方におすすめです。

オススメ度:

あらすじ

視力をなくし、独り静かに暮らすミチル。職場の人間関係に悩むアキヒロ。駅のホームで起きた殺人事件が、寂しい二人を引き合わせた。犯人として追われるアキヒロは、ミチルの家へ逃げ込み、居間の隅にうずくまる。他人の気配に怯えるミチルは、身を守るため、知らない振りをしようと決める。奇妙な同棲生活が始まった――。

ポイント

人付き合いが苦手な2人

ミチルとアキヒロには人付き合いが苦手だという共通点があります。

ミチルは視力を失う前から周囲に馴染めない性格でした。

視力を失ってからますます内向的になり、暗闇で自分しか認識できない状況が暖かくて居心地がいいとさえ思っています。

父が亡くなってからは1人で暮らしています。

アキヒロは、会話の後で一人になると会話の内容を思い出して自己嫌悪に陥ってしまうというような性格の持ち主です。

現在は職場の先輩からの嫌がらせに悩んでいます。

2人とも昔に悪口の書かれた紙を背中に貼られるという体験をしているのが印象的です。

奇妙な同棲生活

駅のホームで起きた殺人事件の犯人として追われるアキヒロは、ミチルの家に逃げ込みます。

少し不思議なのは、わざわざ同じ居間の隅っこにいることです。

ミチルが目が見えないとはいえ、まったく音を立てないわけにはいきません。

実際ミチルはかすかな物音や気配で、何かがいることを疑い始めます。

しかし恐怖から気づいていないふりをして過ごします。

2人の気遣い

ついに決定的な出来事がありミチルは明確にアキヒロの存在を認識し、アキヒロもまたミチルが自分の存在に気付いていることがわかります。

しかしミチルは通報もせず、なんならアキヒロの食事を用意するようになりました。

なぜかというとその決定的な出来事がアキヒロのやさしさを象徴していたからです。

それ以降会話はしないという暗黙のルールはあるものの、2人の距離がだんだん近づきます。

その様子は実際に読んだときのお楽しみにしてください。

そしてお互いの存在なくしては生きていけないとさえ思うまでになります。

感想

初めて読んだのはかなり前ですが、何度も読み返しているお気に入りの小説です。

好きな小説でトップ3に間違いなく入ります。

こんな設定・ストーリーを発想できるなんて乙一に脱帽するしかない。

さらに長さは211ページと読みやすいです。

今まで書いていませんでしたが、実はこの小説はジャンルでいうとミステリにあたるのかなと思います。

ミステリとしても素晴らしく、無駄がないのにしっかりと伏線が張られていて意外な展開を迎えます。

その上で僕はこの小説が恋愛小説だと捉えています。

アキヒロがミチルの家に逃げてすぐは緊張感があり、息をのんで読んでいたのですが、徐々に緊張はほぐれほっこりとした気持ちになります。

いわゆる「白」乙一の作品ですね。

この世界にすっかり没入していました。

現実ではありないという声もあるかもしれません。

ですが僕はそれも小説の醍醐味だと思っています。

印象に残った言葉


心のどこかでは、周りで群れている者たちを軽蔑していた。その癖に孤立して攻撃されると、深く傷つくのだ。


言葉をかけることはできなかった。声を発しただけで崩れて消えてしまうような、危ういつながりしかないように思えていた。

学んだ単語・知識

くずおれる(頽れる)

気力が抜けて、その場に崩れるようにして倒れたり、座り込んだりする。

大辞泉
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最後に

白乙一が好きな方は『失はれる物語 (角川文庫)』、そして乙一の別名義である中田永一の『百瀬、こっちを向いて。 (祥伝社文庫)』もおすすめです。

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