こんにちは、こうへいです。
小説『百瀬、こっちを向いて。』 中田永一(著)を紹介します。
4つの恋愛短編小説が収録されています。
どれも少し癖のある設定で、甘酸っぱく、ミステリ要素もある物語です。
著者である中田永一は、乙一の別名義です。
オススメ度:
特におすすめな方
白乙一が好きな方
短編集が好きな方
甘酸っぱい恋愛が好きな方
あらすじ
百瀬、こっちを向いて。
人間レベル2の僕は、野良猫のような目つきの美少女・百瀬陽と付き合うふりをすることになる。それは家が近所で兄のような存在だった宮崎瞬の指示によるもので…。
なみうちぎわ
わたしは水難事故により遷延性意識障害、いわゆる植物状態になってしまった。無事に高校に入学し、近所に住む少年の家庭教師も始めてしばらくの出来事だった。それから5年がたち、わたしは奇跡的に長い眠りからさめた。
キャベツ畑に彼の声
わたしは出版社に勤める叔父の紹介で、「テープおこし」のバイトを始めた。覆面作家・北川誠二を取材したテープの文字起こしをしているうちに、その正体に思い当たる。
小梅が通る
わたしは地味で目立たない女子グループの一員である。わたしたちは教室の隅にかたまって座り、できるだけ他の人の邪魔にならないように過ごしている。しかし、わたしの地味な容姿は、毎日長時間の化粧をすることでよそおった嘘の顔である。
感想
冒頭でも記載したように著者である中田永一は乙一の別名義です。本人も公言しています。
作風によって名義を使い分けているのだと思います。
中田永一はいわゆる「白乙一」、切なくも希望があり感動する話が多いです。
本作も「白」側です。ミステリの驚き要素もあります。
「小梅が通る」が好きでした。
ベタかもしれませんが、こちらが欲しい言葉・展開が描かれて、キュンとします。
寛太は調子の良いやつですが、嫌いになれないタイプですね。
地味グループの2人も柚木のことをわかってあげる思いやりがあり、心が温かくなります。
文章にひらがなが多いのが特徴的でした。
会話だけでなく、地の文でもそうです。地の文が各章の主人公視点だから変わらないのでしょう。
巻末の解説では「ひらがなを多用することによって、どこか柔らかさが生まれると同時に、語り手の実直さ、どこか淡々とした性格まで伝わってこないだろうか」とあります。
自分は、確かに柔らかさは感じるが、少し読みにくいから漢字を増やしてほしいと思っていました。
機微がわかっていないことを突き付けられたようで、少し悲しくなりました。
印象に残った言葉
「しょうがないから、ナメクジみたいなところがいい、ってこたえておいたよ」「あ、そう。ひどいね、きみ」
「ほめ言葉だよ」
「あなたのことを好きになる人なんていない。あなたにちかづく人は、あなたの顔が好きなだけで、あなた自身にはこれっぽちも興味がないんだからね」
知らなかった単語・知識
ほおずきの花言葉。裏切り、不貞、浮気。
ホオズキの花言葉には、「偽り」や「自然美」、「私を誘って」、「浮気」という意味があります。また、西洋ではホオズキの花言葉は「ごまかし」となっています。
ほおずき(鬼灯)の花言葉|怖い意味に要注意?由来や花・実の特徴、種類は?|🍀GreenSnap(グリーンスナップ)
「偽り」や「ごまかし」という花言葉は、ホオズキの実の大きさのわりに中身は空洞になっていて、タネも小さいため、このような意味がつけられたとされています。
「私を誘って」という花言葉は、ホホという虫が寄りつくさまに由来しているといわれています。ホオズキという名前の由来と同じですね。
「浮気」という花言葉は、観賞用ホオズキに毒性があることからきています。その昔、浮気をした女性の身篭っていた子供が、ホオズキの実を食べたことによって堕胎してしまったことに由来しているのだそうですよ。
遷延性意識障害
遷延性意識障害とは、いわゆる「植物状態」のことをいいますが、日本脳神経外科学会は、遷延性意識障害を次の(1)から(6)が3か月以上継続している状態であると定義しています。
遷延性意識障害について知っておきたい8つのこと (best-legal.jp)
(1)自力移動ができない
(2)自力摂食ができない
(3)失禁がある
(4)眼球は動いていても認識することができない
(5)簡単な命令には応じることもできるが、意思疎通ができない
(6)声を出しても意味のある発語ができない
この小説もオススメ
『百瀬、こっちを向いて。』が好きな方は、『失はれる物語』もおすすめです。
こちらも短編集で白乙一です。