こんにちは、こうへいです。
小説『六人の嘘つきな大学生 (角川書店単行本)』浅倉 秋成(著)を紹介します。
就職活動がテーマのミステリ作品です。
序盤の華やかで前途洋々な描写と打って変わって、途中からは就活生の裏の顔が見え隠れします。
2022年本屋大賞ノミネート & ブランチBOOK大賞2021受賞 している作品です。
オススメ度:
『六人の嘘つきな大学生』あらすじ
成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。
『六人の嘘つきな大学生』がおすすめな人
就職活動に思い入れがある人
この小説を読んでいると、当時のことを思い出します。
就職活動をしていた頃から約6年経った今でも、就活は特殊だったと思います。
説明会、ES(エントリーシート)、面接(集団面接、個人面接)、グループディスカッション…
それぞれに対して対策本やネット記事があふれ、中でも「自己分析」という言葉をよく見ました。
一連の採用活動によって、企業が求めている人材が本当に選考できるのか不思議でした。
就活生に限らず、企業側も含めて、本音だけで話している人がどれほどいるでしょうか。
「素の自分」を受け入れてもらえるのが一番だとわかっていても一発勝負の場では、程度の差はあるにしても取り繕ってしまうのは仕方がないように感じます。
似たような考えを持っている方には特におすすめです。
朝井リョウ『何者』が好きな人
就職活動をテーマにした小説と聞いて一番に『何者』が思い浮かびました。
流行りだしたSNSをうまく取り込んで、就活生の裏の顔に踏み込んだ作品です。
同じテーマと言っても『何者』と『六人の嘘つきな大学生』ではストーリーは全く違いますが、
ドキドキしながらも読み進めてしまう中毒性や衝撃は共通しているように思います。
伏線が好きな人
これだけでもすでにネタバレになるかもしれませんが、読むとすぐにわかることなのでご容赦ください。
「ん?これはどういうことだろう?」と思うような描写がよく出てきます。
その伏線が物語が進むにつれて回収されていきます。
気づけない伏線ももちろんあったので二度読み必至です。
著者浅倉秋成が「伏線の狙撃手」という異名を持つのも納得できます。
『六人の嘘つきな大学生』感想
久しぶりに寝食を忘れるほど続きが気になって読んでしまう小説に出会いました。
自身も経験した就職活動と、デスゲームのような展開がうまく合わさって引き付けられます。
まさしくページターナーです。
この小説の魅力の1つである伏線に関して、後々どう回収されるのかであったり、ここはミスリードかなと想像するのが楽しかったです。
ただし最後まで読んで、もやもやした気持ちになってしまったことは隠さず伝えさせていただきます。
著者が用意した仕掛けをすべて見破るのは、まず無理です。
僕は驚かされるのも好きですが、謎解きをするのも好きです。
謎解きという意味では「フェア」ではないと感じてしまったのが事実です。
「ノックスの十戒」や「ヴァン・ダインの二十則」を基に描かれているわけでもありません。
謎解きを第一の楽しみにしている方にとっては不完全燃焼かもしれません。
ただそもそもこの小説が読者の謎解きを目的として描かれていないというだけであって、批判するつもりは全くありません。
読んでいておもしろかったですし、読んでよかったという思いは変わりありません。
就職活動についても改めて考えさせられました。
就職活動はやはり特殊ですよね。
本当にこれでいいのだろうか?何か他にいい方法がないものだろうか?とは思いますが、変えるのもなかなか難しそうです。
海外、例えばアメリカでは大学の専攻や成績が重視され、ここだけでも日本とは異なるように感じます。
さらにインターンが重要とされ、入社してからの即戦力が求められています。
そもそも優秀な人は一流企業への就職ではなく、起業を目指します。
定年まで同じ会社で働くという考えはなく、半年での転職も珍しくないようです。
最近日本でも転職に対する考え方は少しずつ変わってきていますが、まだまだ海外とは差があると思います。
だからこそ日本では即戦力というよりは、一緒に働きたいと思えるかというような内面を重視するのも仕方のないことかもしれません。
学んだ単語・知識
ノマド
英語で「遊牧民」の意味。近年、IT機器を駆使してオフィスだけでなく様々な場所で仕事をする新しいワークスタイルを指す言葉として定着した。
(株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」