こんにちは、こうへいです。
小説『闇に香る嘘』 下村敦史(著)を紹介します。
全盲の主人公が、かつて満州で生き別れになり27年前に永住帰国した兄の正体に疑念を持つというミステリです。
第60回江戸川乱歩賞受賞作です。
オススメ度:
『闇に香る嘘 』あらすじ・情報
村上和久は孫に腎臓を移植しようとするが、検査の結果、適さないことが分かる。和久は兄の竜彦に移植を頼むが、検査さえも頑なに拒絶する兄の態度に違和感を覚える。中国残留孤児の兄が永住帰国をした際、既に失明していた和久は兄の顔を確認していない。27年間、兄だと信じていた男は偽者なのではないか――。全盲の和久が、兄の正体に迫るべく真相を追う。
単行本は 2014/8/6に出版され、文庫本は2016/8/11に出版されました。
『闇に香る嘘 』おすすめな人
推理小説が好きな人
本作品が第60回江戸川乱歩賞を受賞していることは冒頭でも書きました。
著者の下村敦史はそれまでに過去4度江戸川乱歩賞の最終選考まで残っていたそうです。
何度も苦汁を飲む経験があったからこそ、この小説が生まれたかもしれないと思うと感慨深いです。
あとがきに選考委員の選評も載っていて、物語を読んだ後の楽しみになります。
小説に衝撃を求めている人
ある種のネタバレにはなってしまいますが、真相にびっくりさせられました。
決して無理やりな展開ではなく、伏線も張られていました。
さらに衝撃だけではなく、家族の絆について考えさせてくれる仕掛けになっています。
『闇に香る嘘 』感想
江戸川乱歩賞受賞も納得の作品です。
物語の設定・展開ともに考え抜かれていて感銘を受けました。
地の文は、全盲の主人公の一人称で描かれます。
生活の不自由さはもちろんのこと、不安や猜疑心など内面についても我が身のように感じられる描写です。
自然と感情移入して、主人公と同じように兄を疑いました。
そして読者が手掛かりとして得られる情報も主人公と同じ状態です。
これが小説の醍醐味の1つだと思います。
映画・ドラマなど映像化してしまうと、三人称いわゆる神の視点となってしまい、全盲という設定が活かせません。
広げた風呂敷のたたみ方も見事で、疑いが深かった分それが引っ繰り返ってずっしり心に響きます。
アイデンティティや家族のつながりについても考えさせられる作品でした。
『闇に香る嘘 』印象に残った言葉
常闇の中にいると、周囲を取り囲む闇に浸食され、思いやりややさしさのような目に見えない行為を信じられなくなる。私は孤独な人生を送るうち、心の目まで曇らせてしまったのだろう。
『闇に香る嘘 』学んだ単語・知識
ムクロジ
・茨城県及び新潟県以南の本州、四国及び九州の山地を原産とするムクロジ科の落葉高木。
庭木図鑑 植木ペディア
・名前の由来には、ムクロジが家にあると病を知らないとして「無患子」(むくろし)と呼ばれるようになったという説、実のなる様子を「ツブナリ」と表現し、これが転訛したとする説、同科のモクゲンジを示す漢語「木樂子」が誤って使われたという説がある。
・ムクロジの材は家具や器具に、黒くて硬い楕円形の種子は羽根突きの羽根や数珠に使われる。
視覚障碍者の義務
目が見えない者(目が見えない者に準ずる者を含む。以下同じ。)は、道路を通行するときは、政令で定めるつえを携え、又は政令で定める盲導犬を連れていなければならない。
道路交通法 第14条 第1項
白杖や盲導犬がいなければ日常生活も難しいとは思っていましたが、法律で定められた義務というは知りませんでした。
反対に必要のない人が白杖を携えたり、盲導犬を連れることは禁止されています。